by ばかぼん父
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2005年 03月 11日
「vCJDは輸血により感染する」、このショッキングなニュースのもとになった症例は「どうなる?BSE問題」の中でも紹介したProMed(2004II04-0030)にも登場するが、Lancet という臨床系のメジャーな雑誌にも掲載されている。
Lancet.2004 Aug 7;364(9433):527-9 この方は潜伏期のvCJD患者から輸血を受けた5年後に腹部大動脈瘤破裂で死亡したのだが、プリオンがみつかったのは、脾臓と頚部リンパ節で、脳には異常なし。 Lancetの論文には各組織(脳を含む)のプリオンの免疫組織染色写真が掲載されている。 この論文から 1)血液でvCJDがヒトからヒトへ伝播した。 2)5年経っていた時点で脳への感染は認められなかった。 これに加えて論文のタイトルにもなっているのは 3)これまでのvCJDの患者さんのPRNPの型は、アミノ酸配列の129番目がメチオニン/メチオニンの人だけだったのが、この亡くなった方は、メチオニン/バリンだった、ということだ。 感染規模から考えて患者数が少ない理由として、ヒトの個体差の可能性も考えられる。PRNPの型の意義については、ヒト型のPRNPをマウスに発現させ、脳内にプリオンを接種すると、そのメチオニン/メチオニン、メチオニン/バリン、バリン/バリンの型によって症状が違い、メチオニン/メチオニンの時、vCJDに最も似ていたという Science の論文もある。 最初、世界が大いに反応したのは1)についてだ。輸血が危険、血液製剤が危険、 血友病の患者はvCJDのリスクも高い、ということで政府が警告を出した。 しかし、感染が起きたのは、5年経過時点だが古い血液を壊す脾臓と、頚部リンパ節であって、脳ではない。 この情報は、血液によって感染したと考えられる証拠の一つでありながら1)、 血液感染と脳への感染が即イコールではないことも示している2)(臓器の壁)。 この大動脈瘤破裂で亡くなった方を含めて、受血した17名はまだ誰もvCJDを発症していないし、健康な方を解剖するわけにもいかないので、 脾臓やリンパ節になら、血液により100%感染するかどうかも解っていない。 リンパ節は、がんの転移先としても、ホットスポットであるように、 血流にのっているものが、引っかかりやすい場所だ。 そこにプリオンが感染したのは、納得できる結果だ。 問題は、感染した脾臓やリンパ節から、2次的に脳への感染が起きるかどうか?だが、 まだ5年しか経っていないので、なんとも言えない。 というよりも、受血者の中から vCJDの患者が出るまで待たないとわからないと言った方が良い。母数が少ないので、感染しないということはできない。 (感染するという)悪い結果しか検証できない追跡調査をしていることになる。 輸血により感染が起こるという事は、供血者の血中にプリオンがあるということになる。 例えば、脳まではプリオンが到達していないので発症していないけれども、 実はリンパ節等の他の部位には感染しており、血中にプリオンが流れている場合もあるかもしれない。 実際「(vCJDではない)12674例(60%が20代)の虫垂か扁桃切除標本を調べたら、3例の異常プリオンタンパク質をリンパ組織中に認めた。そのうち1例がvCJDのパターンで、2例は別のものだった」という報告がある。強引にこの比率をイギリスにおけるこの年齢層の人口に当てはめると3800人という数字になるそうだ。 J Pathol. 2004 Jul;203(3):733-9. BSEのウシを食べた人のうち、気がつかないうちに体内のリンパ節に感染している人がいるのだ。そのリンパ節から血液中にプリオンが流れ出しているかも しれない。その他臓器から脳への感染までにかかる時間が、 長い潜伏期を表している可能性もある。 このように考えればvCJDの発生も、もっと後で再び上昇するかもと考えられる。 しかし、「3800人のうち、献血をしている人数もかなりの?(イギリスの 献血事情はよくしらないが)人数だろうし、BSEが大量に起きてから、 危険部位の除去を始めるまでに献血をした人も大勢いたはずだ。 それでも、今のところではあるが、この患者数しか発症していない事実がある。 他臓器に感染することが、脳への感染リスクを格段に上げたとしても それでも患者数が減少傾向になったので、ピークは過ぎたことになる。 減少したことの説明として、先に述べたように潜伏期が長いせいだとしても 受血した方はプリオンが5年で免疫染色できるくらいに増えていたが、 脳への感染は無かったのだ。 潜伏期が5年では足らないというのであれば、「量」がもっと必要ということになり、 脾臓やリンパ節の異常が先に見つかりそうなものだ。 把握されている受血者は将来そうなるかもしれないが、 潜在的な受血者はいたはずなのに、15年経ってもまだ、そのような事例の報告はない。 もし「脳への感染が無ければ血中にプリオンが出ない」のなら、 患者の数が限られているので、コントロールできそうなところまで来ている。 私は、体内に一度トラップされたvCJDが残りの人生のどこかで脳へ感染するには、 やはり「臓器の壁」を乗り越えるような2次的な何かアクシデントが 必要なのではないか?と考える。 食べたプリオンが体内に感染する確率が低い、 そこからさらに脳へ感染する確率も低い。 しかし長期間プリオンが体内にあるということは、 低い確率でも将来脳まで感染するリスクが排除できないから、 体内への感染が全く無い人に比べるとリスクは高い。 しかしその確率は、発症した人のプリオンが脳への壁を越える確率と同じであり 時間が経てば、いつか必ず発症するというものではないのだろう。 しかしvCJDの感染の可能性のある人からの献血は、 (不発弾である可能性も大きいが)時限爆弾のようなものにあたるので、 疑わしき人からの輸血をとりあえず禁止するのは妥当な決定だと考える。 それでも充分に輸血が必要な人の分を賄えるのであれば、であるが。 ちなみに血液製剤からの感染はまだ全くないので、 イギリスやフランス製以外なら心配には及ばないと思う。 それに、病気や怪我の治療に輸血が必要なら、vCJDの心配をすることなく 輸血をするべきと答える。 もっとも、輸血による危険性については、 vCJDよりエイズウイルスや肝炎ウイルスの心配をするべきだと思うけれど。 余談だが、動物実験では、羊だけで血液から脳への感染が高確率で起こるが、 他の動物では、少なくともこれまで実験に供された数では起きていない。 「プリオン説」でノーベル賞を貰ったプリスナー博士は、羊のスクレーピーで、 実験をしたので、意味のある実験結果が出た。 この結果をみて、他の動物で同じ実験をした研究者は再現できず、 陰で「プリオン説は羊でのみ、意味がある」とまで言われていたらしい。 イギリスにおいて図らずも行われてしまった、大量のヒトに対して暴露する 「実験?」が、「プリオン説」が正しいとする、証拠のひとつとなった。 長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
by bakabon_chichi
| 2005-03-11 12:18
| はぐれ研究員の独り言
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